処分方法2026-03-11

相続した賃貸物件(アパート・マンション)を引き継いだら?借主・管理会社・売却の実務を宅建士が解説

親が所有していたアパートや賃貸マンションを相続した場合、借主との契約・家賃収入の帰属・管理会社の引き継ぎ・売却判断まで、宅建士が実務の流れを整理します。

💡 この記事は宅地建物取引士が執筆・監修しています

賃貸物件を相続したとき、まず何が起きるか

アパートや賃貸マンションを相続した場合、空き家や更地と違って「すでに入居者がいる」という事実がすべての論点の出発点になります。

  • 借主との賃貸借契約は続くのか、終わるのか
  • 家賃収入は誰のものになり、いつから申告が必要か
  • 管理会社との契約は引き継がれるのか
  • このまま保有するか、売却するか

この記事では宅建士の立場から、それぞれの論点を実務の流れに沿って整理します。相続税・確定申告は税理士の、登記・権利処理は司法書士の、賃借人との法的トラブルは弁護士の専門領域です。本記事でこれらへの相談を案内しているのは、宅建士の判断範囲を超えるためです。


1. 借主との賃貸借契約はどうなるか

賃貸人の地位・権利義務はそのまま承継される

結論から言うと、被相続人(前オーナー)が借主と結んでいた賃貸借契約の貸主(賃貸人)としての地位・権利・義務は、原則としてそのまま相続人に引き継がれます

根拠は民法第896条(包括承継)です。相続人は被相続人の一切の権利義務を包括的に承継するため、賃貸借契約の貸主としての地位もそのまま引き継がれます。売買・贈与のような所有権移転とは異なる仕組みです。

ちなみに「民法第605条の2が根拠では」と疑問を持つ方もいるかもしれませんが、同条は売買等による所有権移転に伴って賃貸人の地位が移転する場面(賃借人が対抗要件を備えている場合)を定めた規定です。相続の場合は包括承継(民法896条)が直接の根拠であり、区別して理解してください。

一点補足すると、「賃貸借関係が存続すること」と「第三者に対して賃借権を対抗できること(対抗要件)」は別の概念です。対抗要件とは賃借人が第三者に「自分は賃借人だ」と主張できる根拠のことで、建物賃貸借では引渡しがその代表例です(借地借家法第31条)。ただしこの対抗要件の議論は売買等の場面で主に問題になるものであり、相続で貸主の地位を承継することとは切り分けて考えてください。賃借人(借主)の同意は不要です。

法律上、借主への通知義務はありませんが、早めに書面で通知しておいたほうが実務はスムーズです。振込先が変わる場合の混乱防止、敷金の返還義務の所在の明確化、修繕・緊急時の連絡先変更など、伝えておくべきことは複数あります。

借主を退去させることはできるか

「相続したので出ていってほしい」という要望は、残念ながら基本的に通りません。借地借家法では、建物賃貸借の更新拒絶・解約申し入れには「正当事由」(借地借家法第28条)が必要であり、「相続した」「売却したい」という事情は正当事由として認められないのが一般的です。

もっとも、定期建物賃貸借契約(借地借家法第38条)であれば更新がなく期間満了で終了しますし、通常の賃貸借でも立退料の提示が正当事由の補完要素になるケースはあります。

契約の種別確認や退去交渉の進め方は弁護士にご相談ください。立退料の相場・リスク評価は宅建士の判断範囲を超えます。


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2. 家賃収入はいつから誰のものか

相続開始日から相続人の所得になる

家賃収入の帰属は相続開始日(被相続人が亡くなった日)を境に変わります。それ以降に発生した家賃収入は相続人の不動産所得となり、確定申告の対象です。

複数相続人がいる場合・遺産分割が終わっていない場合

遺産分割協議が完了するまでの間、賃貸物件は共同相続人が法定相続分に応じて共有している状態になります(民法第898条・第900条)。この期間の家賃収入は、原則として各相続人が法定相続分の割合に応じて取得する扱いです。

実務では管理会社が一括収納して代表者の口座に振り込むことが多いですが、税務上の申告主体は各相続人です。「代表者が全額受け取って後から分配」という処理をしていても、それぞれが自分の法定相続分相当分を確定申告しなければなりません。

ただし、共有状態が続く場合や分配方法が法定相続分と実態としてずれている場合、未分割が長期にわたる場合などは、申告タイミングの判断に個別対応が求められます。配分ルールが未確定のまま家賃収入が動き始めている場合は、早めに税理士に相談してください。申告年度・申告主体・経費の取り扱いはケースごとに異なります。

なお、遺産分割が成立して特定の相続人が単独取得した年以降は、その相続人のみが申告主体となります。

相続開始前後で「未収賃料」の扱いが変わる

相続開始前にすでに発生していた滞納家賃などの未収賃料は相続財産の一部です。相続人が回収した場合には相続税の対象となる可能性があります。一方、相続開始後に発生した未収賃料は相続人の不動産所得として処理されます。この時点の区分が申告内容に直結するため、滞納がある物件を引き継いだ場合は税理士に確認を取ってください


3. 敷金の引き継ぎと実務確認

返還義務ごと引き継ぐ

被相続人が預かっていた敷金は、貸主の地位と一体で相続人に引き継がれます。借主が退去する際は相続人が返還義務を負います。売買によるオーナーチェンジなら売買代金の中で清算できますが、相続の場合はそれがないため、引き継ぎ時点で敷金の所在と金額をきちんと把握しておくことが重要です。

「敷金なし・保証会社あり」のケースも確認を

近年は敷金を預からず、家賃保証会社(賃貸保証会社)を利用する契約が増えています。保証会社との契約関係も相続人が引き継ぎますので、管理会社に保証会社の名称・保証内容・更新状況を確認してください。

原状回復の取り決めは書面で残す

借主退去時には原状回復の精算が発生します(国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」参照)。前オーナーと借主との間に口頭での合意があった場合でも、書面が残っていないと確認が困難です。引き継ぎの際に管理会社から過去の経緯を確認し、あいまいな部分は書面化しておきましょう。

引き継ぎ時に確認すべき敷金情報

確認事項内容
敷金・保証金総額入居者ごとの金額・預かり先(オーナーor管理会社)
精算済状況前オーナー時代の立替・既返還処理の有無
預かり口座敷金が分別管理されているか
家賃保証会社の利用有無保証会社名・保証範囲・更新状況

4. 管理会社との引き継ぎ手続き

まず管理委託契約書を読む

前オーナーが管理会社と「管理委託契約」を結んでいた場合、原則としてその契約も引き継がれます。ただし「賃貸人の死亡を解除事由とする」条項が入っていれば、管理会社から解除を申し出られる可能性があります。最初に契約書の内容を確認してください。

管理会社に連絡・確認する内容

振込先口座の変更は最優先です。被相続人名義の口座への入金は相続開始後に凍結される可能性があります。それに加えて以下を確認します。

  • 相続人として管理を引き継ぐ旨の通知(相続人全員の合意がある場合)
  • 緊急連絡先・修繕判断の意思決定者の変更
  • 管理委託契約を継続するか解約するかの意向
  • 固定資産税・管理費等の未払い・未収金の有無
  • 修繕積立金等の清算対象費用の残高
  • 未収家賃(滞納家賃)の状況と今後の回収方針

通知の際は、管理委託契約の写しと相続証明書類(戸籍謄本・遺産分割協議書等)を一緒に提出するのが一般的です。

督促・未収金管理のルールも引き継ぐ

賃料を管理会社が代行収納している場合、滞納時の督促フロー・保証会社への請求手続き・法的措置への移行基準(何ヶ月で弁護士対応になるか等)は管理委託契約書の付帯規程や運用マニュアルに記載されていることが多いです。このルールも引き継ぎの対象として確認してください。


5. 相続登記(名義変更)は早めに動く

3年以内の申請義務

2024年4月施行の法改正により、相続による不動産取得を知った日から3年以内に相続登記(所有権移転登記)を申請することが義務化されました(不動産登記法第76条の2)。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象となります。

登記が遅れると実務上も困る

行政上の義務であることに加えて、登記が完了していないと対外的な権利対抗力(第三者への所有権の主張)に制約が生じます。具体的には、

  • 売却時に買主・金融機関から名義確認を求められ、手続きが止まる
  • 融資・借入の際に担保として使えない
  • 相続人間で権利関係の争いが生じた場合に立場が弱くなる

賃貸物件の場合は、登記手続きと並行して管理会社・借主への通知を進めることで、家賃収入の受取体制を早期に整えられます。

相続登記の手続きは司法書士にご相談ください。遺産分割協議書の作成・相続関係の権利整理も含めて依頼できます。


6. 保有を続けるか、売却するか

「とりあえず持っておく」という判断は、修繕費・空室リスク・管理負担が積み重なると後から後悔するケースがあります。宅建士として、以下の観点から整理することをお勧めします。

保有継続に向いているケース

  • 表面利回りが周辺相場(エリアの実勢利回り)に対して適切
  • 建物が比較的新しく、大規模修繕が当面発生しない
  • 空室率が低く、直近の更新状況が安定している
  • 相続人が管理に関わる意欲・時間があるか、信頼できる管理会社が継続できる
  • 将来的に子世代への資産承継を考えている

売却を検討したほうがよいケース

  • 老朽化が進んでおり、設備交換・修繕の出費が重なりやすい
  • 空室率が高い、または近隣の賃料相場が下落傾向にある
  • 相続人が遠方にいて現地管理が難しい
  • 相続人が複数いて、管理方針の意見がまとまらない
  • 相続税の納税資金として現金化したい

判断に使う数字は「推移」で見る

単時点の入居率より、過去3年の推移と今後の更新時期の分布を見たほうが実態に近い判断ができます。管理会社から以下を取り寄せてください。

確認項目確認内容判断への活用
空室率の推移(直近3年)各年の空室戸数・率の変化増加傾向か改善傾向かを把握
入居者の更新時期の分布1年以内に更新・退去が集中している割合直近の空室リスクと募集費用の見積もり
直近3年の入退去状況年間の退去件数・入居件数平均居住年数・回転コストの把握
現況賃料と近隣相場の比較相場との乖離率(高め・低め・適正)賃料改定余地・値下げリスクの評価
過去3年の修繕費実績年間修繕費の合計と主な内訳今後のコスト予測
未収金の発生状況直近2年の滞納件数・回収結果収益の安定性・管理実態の把握

7. 入居者がいる状態での売却(オーナーチェンジ)

退去させなくても売れる

入居者がいる状態での売却を「オーナーチェンジ」と呼びます。買主が入居者をそのまま引き継ぐ前提で売買するため、退去させる必要はありません。

項目内容
買主層主に不動産投資家・法人
価格の算出方法現況の家賃収入 ÷ 想定利回り(収益還元法)
内見の制約借主の承諾が必要なため、外観・書面中心の審査になる
売却期間立地・利回り・築年数・空室率によって大きく異なる

帳面の賃料より「実際に入金されているか」が重要

投資家は「月〇万円の賃料が設定されている」ことより、実際に入金されているかどうかを重視します。未収金があると実質利回りが下がり、査定額に直接影響します。査定依頼の際は以下を整理しておいてください。

情報内容
レントロール(賃料一覧表)入居者ごとの現況賃料・契約期間・更新状況
実勢賃料とのギャップ現況賃料が周辺相場より高い・低いかの確認
過去1〜2年の入金実績月別の入金率・未収金の発生状況
未収金の回収状況期間別(3ヶ月以内・6ヶ月以上等)の未回収残高と回収率
固定費の明細固定資産税・管理委託費・保険料等の年間合計
修繕履歴過去の主要な修繕内容・費用・実施年

保証会社経由で回収済みの未収金は、その旨を明示すると評価が安定します。利回りが低い・老朽化が進む・空室率が高い物件は需要が下がるため、賃貸管理・投資物件の売買実績がある不動産会社に査定を依頼するのが現実的です。

全室空室になってから売る選択肢もある

入居者が全員退去すれば、居住用(実需向け)の購入者にも訴求できます。エリアによっては売却しやすくなる場合もありますが、空室期間中も固定費(管理費・固定資産税等)は継続します。空室化を戦略的に待つかどうかは、固定費の負担期間と売却価格の差を試算したうえで判断してください。


8. 売却前に揃えておく書類

書類用途
賃貸借契約書(全入居者分)買主・仲介会社による契約内容の確認
レントロール(賃料一覧表)現況の収支確認・査定根拠
管理委託契約書管理会社の引き継ぎ条件・費用の確認
修繕履歴建物の維持管理状況の把握
敷金の預かり明細売買時に買主へ引き継ぐ敷金額の確定
過去1〜2年の入金実績明細月別の入金率・未収金の発生時期と金額
固定費内訳明細固定資産税・管理委託費・保険料等の年間費目別金額
建物図面・設備台帳設備の種類・設置年の確認

書類が揃っているほど買主の不安は減ります。管理会社に依頼して早めに整理しておくと、売却活動の立ち上がりがスムーズになります。


まとめ

論点ポイント
借主との関係民法896条の包括承継により貸主の地位を引き継ぐ。共有相続の場合は単独行為に制約あり。退去交渉は弁護士へ
家賃収入の帰属相続開始日から相続人の所得。遺産分割前は法定相続分が原則だが、配分ルール未確定なら税理士に確認を
未収賃料の区分相続開始前後で税務上の扱いが異なるのが原則。個別判断が必要なため税理士へ
敷金返還義務ごと引き継ぐ。保証会社・原状回復の取り決めも確認
管理会社振込先変更が最優先。未収金・督促ルール・清算費用の確認も忘れずに
相続登記3年以内の義務。対抗力・売却・融資にも必要。司法書士へ
保有 vs 売却単時点の入居率でなく、空室率の推移・更新時期・修繕費実績で判断
売却方法入居中はオーナーチェンジ。入金実績・固定費込みの実態情報の整備が査定精度を上げる

賃貸物件の相続は、空き家の相続に比べて関係者(借主・管理会社・税理士・司法書士)が多く、それぞれへの連絡と手続きを並行して動かす必要があります。

まず書類を揃えて管理会社に現状を確認し、司法書士・税理士との分担を決めてから、保有継続か売却かを判断するのが実務的な流れです。無料診断ツール で状況を整理することから始めてみてください。


*この記事は宅地建物取引士(雪下 智且)の監修のもと作成しています。内容は2026年3月11日時点の情報に基づきます。法令・制度は変更される場合があります。賃借人の退去交渉・賃貸借契約上のトラブル対応は弁護士へ、相続登記・遺産分割協議書の作成は司法書士へ、家賃収入の確定申告・相続税の申告・未収賃料の税務区分は税理士へご相談ください。個別の物件状況・権利関係・契約内容により必要な手続きは異なります。*

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