旧耐震基準の相続物件を売却するには?売り方の選択肢・費用・注意点を宅建士が解説
1981年以前に建築された旧耐震基準の建物を相続した場合の売却方法を宅建士が解説。住宅ローン減税や融資条件が厳しくなりやすい問題、現況売却・解体・耐震改修それぞれの手順・費用・税務上の注意点を整理します。
💡 この記事は宅地建物取引士が執筆・監修しています
相続した実家が「旧耐震基準」だとわかったとき、最初にどうすればいいか——よく相談を受けるテーマです。
結論からいうと、旧耐震基準の物件は「売れない」わけではありません。ただ、準備なしで動き出すと損をしやすい物件でもあります。住宅ローンまわりの制約、解体費用、相続した空き家の税務上の特例——これらを事前に整理してから売却方法を選ぶかどうかで、手取り額が変わってきます。
**この記事の範囲:** 宅建士の立場から売却実務の一般的な流れを解説しています。税務上の適用可否(3,000万円特別控除・住宅ローン減税)は個別に判断が必要なため**税理士**へ、売買契約の特約・トラブル対応は**弁護士**へ、相続登記は**司法書士**へご相談ください。
1. 旧耐震基準とは
建物の耐震基準は1981年(昭和56年)6月1日を境に大きく変わりました。それ以前に建築確認を取得した建物を「旧耐震基準」と呼び、それ以降を「新耐震基準」といいます。
旧耐震では震度5強程度の地震で倒壊しないことが設計上の想定であり、新耐震では震度6強〜7でも倒壊しないことが求められます(建築基準法施行令、昭和56年政令第320号改正)。2026年時点では、旧耐震基準の建物は築45年以上になります。
「築40年以上の実家を相続した」「祖父母名義のアパートが残っている」という方は、まず登記事項証明書(登記簿謄本)に記載された新築年月日を確認してください。法務局またはオンライン(登記情報提供サービス)で取得できます。
一点だけ注意してほしいのは、基準の分かれ目は建築確認の取得日であって、工事の完了日や登記の日付ではないという点です。1981年5月に確認を取得し、7月に竣工した建物は旧耐震基準の扱いになります。判定は建築確認済証・検査済証の日付で行います。
2. 旧耐震基準が売却に与える影響
実務上、最もよく聞かれるのが「なかなか買い手がつかない」という話です。その主因は住宅ローンまわりの問題です。
住宅ローン減税(租税特別措置法第41条)には耐震性能の要件があります。旧耐震基準の建物はそのままでは要件を満たしにくいため、買主が住宅ローン控除を受けにくかったり、金融機関の担保評価が保守的になったりする場合があります。結果として、買主層が現金購入者や投資家に偏りやすくなり、成約価格が周辺相場より低くなる傾向があります。
ただし、後述の耐震基準適合証明書を取得するか、要耐震改修住宅の特例(国税庁No.1211-5)を活用することで対応できるケースもあります。個別の適用可否は買主の税理士や利用する金融機関に確認が必要です。
不動産取得税の軽減措置や住宅金融支援機構のフラット35にも耐震性能の要件があります。都道府県・制度ごとに要件が異なるため、詳細は各制度の窓口(都道府県税事務所・金融機関)にご確認ください。
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3. 売却の4つの方向性
旧耐震物件の売却には、大きく4つの方向性があります。どれが合うかは、物件の状態・相続人の事情・急ぎ度によって変わります。
現況のまま売る
費用も手間もかけず、そのままの状態で売り出す方法です。買主層は投資家や現金購入者が中心になりますが、立地や価格次第では動くこともあります。
「遠方で管理できない」「建物の状態が悪くて改修費を出したくない」という場合には現実的な選択肢です。ただし一般的な住宅購入者には訴求しにくく、仲介で売り出しても問い合わせが少なかったり、価格交渉が厳しくなりやすかったりします。
耐震基準適合証明書を取得して売る
建築士による耐震診断を受けて基準を満たしていることが確認されれば、「耐震基準適合証明書」を取得できます。これがあると住宅ローン減税の適用可能性が開かれ、フラット35の利用も視野に入ります(利用可否は金融機関ごとに確認)。買主の選択肢が広がるぶん、売却価格・売却期間の改善が見込みやすくなります。
費用の目安として、耐震診断は木造戸建てで5〜15万円程度、診断の結果基準を下回る場合の改修工事は100〜250万円程度がよくある範囲です(規模・工法により異なります)。診断結果によっては改修工事なしで証明書が取れることもあります。RC造(鉄筋コンクリート造)では旧耐震基準でも診断で基準をクリアするケースが比較的多いです。
なお、自治体によっては耐震診断に補助金(費用の1/2〜2/3程度)を設けているところもあります。建物所在地の市区町村に確認してみてください。
証明書の取得タイミングは、一般的に引き渡し前が求められることが多いですが(目安)、金融機関やローン商品によって異なります。買主が利用する金融機関に事前に確認してもらってください。住宅ローン減税の適用可否など税務上の判断は税理士にご確認ください。
耐震診断・証明書の発行は建築士(一級または二級)に依頼します。地域の建築士事務所協会や自治体の相談窓口で紹介してもらえます。
建物を解体して更地にして売る
建物を壊し、土地だけを売る方法です。建物の状態が悪い場合や、建物リスクを切り離したい場合に選ばれます。買主の用途が広がるため、エリアによっては売りやすくなることもあります。
ただし、踏み切る前に確認してほしいことが3つあります。
まず解体費用です。木造戸建ての場合、延床80㎡以下で80〜140万円程度、100〜120㎡で120〜200万円程度、150㎡以上は200万円以上が目安です(地域・工法・アスベスト有無により変動します)。
次にアスベスト(石綿)の調査です。1975年以前の建物ではアスベスト含有建材が使われていることがあり、解体前に専門の調査が義務付けられています(大気汚染防止法第18条の15)。解体業者か建築士に依頼してください。
もう一つが固定資産税の住宅用地特例です。住宅が建っている土地には固定資産税の軽減(小規模住宅用地は課税標準1/6)が適用されていますが(地方税法第349条の3の2)、建物を解体するとこの特例が外れ、固定資産税が最大6倍になります。売却が長引いた場合のコスト増加を試算したうえで解体の判断をしてください。固定資産税の計算は税理士にご相談ください。
不動産会社に買い取ってもらう
仲介ではなく、不動産会社が直接買い取る方法です。成約まで早く(1〜2週間程度)、買主を探す手間がかかりません。一方、価格は仲介より低くなる傾向があり、市場価格の6〜8割程度が目安といわれます。
旧耐震基準の物件は仲介での売却に時間がかかりやすいため、「管理が続けられない」「相続税の納税資金が必要で急いでいる」という場合は買取が現実的な選択肢になります。仲介での査定額と買取額を両方確認してから判断するのが理想的です。
4. 相続した空き家の3,000万円特別控除
「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」(租税特別措置法第35条第3項)は、条件を満たすと譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度で、旧耐震基準の物件を相続した場合に確認価値があります。
主な要件の概要は以下の通りですが、これはあくまで目安です。
| 要件 | 概要(目安) |
|---|---|
| 建物の用途 | 相続直前まで被相続人が一人で居住していたこと |
| 建物の建築時期 | 1981年5月31日以前の建築(旧耐震基準)が要件の一つ |
| 売却期限 | 相続開始から3年を経過する年の12月31日まで(相続開始日に依存) |
| 売却価格 | 1億円以下 |
被相続人の居住実態・相続人が複数いる場合の持分・申告方法によっても判断が変わります。売却活動を始める前に税理士にご相談ください。 要件を一つでも満たさなかった場合、特例が認められず多額の譲渡税が発生します。
2024年改正(2024年1月1日以降の譲渡分から適用)では、売主が解体・耐震改修をしなくても、引き渡し後に買主が対応する場合も特例の対象になるケースが増えました(一定要件あり。詳細:国税庁No.3306)。これにより、現況のまま売却しても特例が使えるケースが増えていますが、買主の施工時期・証明書取得の要否など確認事項も増えます。
特例の適用には市区町村発行の確認書・登記事項証明書・売買契約書の写しなど複数の書類が必要です。確認書の申請に必要な書類(被相続人の住民票の除票、水道廃止記録など)は市区町村の窓口で事前に確認してください。
5. 売却前に動かしておく流れ
実務上の進め方の目安です。税務上の特例(3,000万円控除)は売却活動より前に税理士に確認しておくことをお勧めします。要件確認が後回しになると申告で困ることがあります。
| ステップ | 内容 | 相談先 |
|---|---|---|
| ① 建物の建築年・構造の確認 | 建築確認済証・登記事項証明書で確認 | — |
| ② 相続登記の完了 | 名義変更が済んでいない場合は先に登記 | 司法書士 |
| ③ 3,000万円特別控除の適用確認 | 売却前に要件確認 | 税理士 |
| ④ 売却方針の決定 | 現況売却・耐震改修・解体・買取 | 不動産会社(複数査定) |
| ⑤ 耐震診断・証明書の取得(必要な場合) | — | 建築士 |
| ⑥ インスペクションの実施(任意) | 建物状況を把握し告知内容を整理 | 建築士・ホームインスペクター |
| ⑦ 境界確認(未確定の場合) | 隣地との境界が不明確な場合 | 土地家屋調査士 |
| ⑧ 売却活動・契約・引き渡し | — | 不動産会社 |
| ⑨ 確定申告 | 譲渡所得の申告(特別控除の適用含む) | 税理士 |
相続した古い土地では境界が確定していないケースも少なくありません。売却前に確定しておかないと契約時にトラブルになることがあります。費用は立地・面積・状況によりますが30〜80万円程度が目安です。土地家屋調査士にご相談ください。
また、売買後に雨漏りやシロアリ被害などが発覚した場合、契約内容によっては売主が契約不適合責任を問われることがあります(民法第562条)。旧耐震基準の建物は築年数が古く、こうしたリスクが顕在化しやすいです。インスペクションを実施して問題箇所を把握・告知しておくか、現況有姿条件での売却を検討してください。特約の設計や個別のトラブル対応は弁護士にご相談ください。
なお、2024年4月1日から相続登記が義務化されています(不動産登記法第76条の2)。相続を知った日から3年以内の登記が必要であり、売却の前提でもあります。司法書士にご相談ください。
まとめ
| 論点 | ポイント |
|---|---|
| 旧耐震基準の判定 | 建築確認の取得日が基準(1981年5月31日以前)。新築年月日は目安で、最終確認は建築確認済証・検査済証で行う |
| 売却への影響 | そのままでは住宅ローン減税が使いにくく、買主層が限られ価格が下がりやすい傾向(耐震基準適合証明書取得で改善できる場合あり) |
| 耐震基準適合証明書 | 建築士による耐震診断で取得。一般的に引き渡し前の取得が求められることが多い(目安。金融機関・ローン商品ごとに確認) |
| 解体売却 | 解体費用・固定資産税特例の喪失・アスベスト調査の3点を事前確認 |
| 3,000万円特別控除 | 旧耐震基準の空き家が要件の一つ(詳細:国税庁No.3306)。2024年改正で買主側改修も要件充足できる場合あり。適用可否・申告方法は税理士へ |
| 相続登記 | 売却の前提。2024年4月から義務化。司法書士へ |
| 瑕疵担保責任 | インスペクションの実施と告知内容の整理でリスクを低減。個別判断は弁護士へ |
まず無料診断ツールで現在の状況を整理し、不動産会社への複数査定と並行して、税理士・司法書士への相談を早めに動かしてください。
*この記事は宅地建物取引士(雪下 智且)の監修のもと作成しています。内容は2026年3月12日時点の情報に基づきます。法令・制度は変更される場合があります。耐震診断・耐震基準適合証明書の取得は建築士へ、相続登記・遺産分割協議書の作成は司法書士へ、譲渡所得の申告・3,000万円特別控除の適用可否・相続税の申告は税理士へ、境界確定測量は土地家屋調査士へご相談ください。個別の物件状況・権利関係・契約内容により必要な手続きは異なります。*