制度解説更新 2026-03-30

相続放棄の手続きガイド|期限3ヶ月の落とし穴と失敗しない進め方

相続放棄を検討するときに押さえるべき基本を、宅建士の立場から整理。期限管理、全財産への影響、土地相続で迷いやすい論点を概説し、最終判断は弁護士へ相談する前提で解説します。

💡 この記事は宅地建物取引士が執筆・監修しています

相続放棄は「土地対策」ではなく「相続全体の判断」

相続放棄の相談で最も多いのは、「不要な土地を引き継ぎたくない」というケースです。気持ちは十分に理解できますが、相続放棄は土地だけを切り離す手続きではありません。預貯金・有価証券・債権・債務など相続財産のすべてを放棄することになります。

この点を誤解したまま手続きを進めると、手放したかった土地を回避できても、受け取れるはずだった資産まで失う結果になることがあります。判断前に全体像を把握することが不可欠です。

期限は「知った日から3ヶ月」——起算点に要注意

相続放棄の申述期限は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です(民法第915条)。これは原則として被相続人が死亡した日ではなく、相続人が自分が相続人であることを知った日が起算点になります。

出典:法務省「相続の承認又は放棄」

ただし実務上は「死亡を知った日=起算点」のケースがほとんどです。迷っている間に3ヶ月が過ぎると、単純承認(相続を全面的に受け入れたとみなされること)が成立し、放棄ができなくなります。

期限延長の申立てが可能なケース

「財産調査に時間がかかる」「遠方で対応が遅れた」などの事情がある場合、家庭裁判所に申立てをすることで、熟慮期間を延長してもらえることがあります。ただし認められるかどうかはケースバイケースですので、延長を前提に計画することはお勧めできません。早めに弁護士・司法書士に相談し、動きながら確認するのが現実的な進め方です。

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家庭裁判所への申述:具体的な手順

相続放棄は、家庭裁判所に申述書を提出することで効力が生じます。自分で手続きすることも法律上は可能です。

申述先

被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所。

(参照:裁判所「相続の放棄の申述」

主な必要書類(一般的なケース)

書類内容
相続放棄申述書裁判所のウェブサイトから書式入手可
被相続人の住民票除票または戸籍附票最後の住所地の確認
被相続人の死亡記載ある戸籍謄本死亡事実の証明
申述人の戸籍謄本相続人であることの証明
収入印紙800円申述費用
連絡用郵便切手裁判所から郵便が届く場合に使用

被相続人との続柄(子・配偶者・親・兄弟姉妹など)によって必要書類が異なります。詳しくは管轄の家庭裁判所か弁護士・司法書士に確認してください。

費用の目安

申述自体の費用は低額(収入印紙800円程度)ですが、司法書士や弁護士に代行依頼する場合の報酬相場は3〜5万円程度が多いです。

相続放棄しても管理責任が残るケース

2023年4月の民法改正(相続土地国庫帰属法と同時)により、相続放棄をした場合でも、「相続放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している相続人」は、次の相続人や相続財産清算人が管理できるようになるまでの間、自己の財産と同一の注意で管理を続ける義務があります(民法第940条)。

つまり、すでに管理している土地や空き家がある場合、放棄後すぐに手を引けるわけではありません。次の相続人や清算人への引き継ぎが完了するまでは、最低限の管理責任が残ります。

法定単純承認(放棄できなくなるケース)

相続放棄を検討しているときに、うっかりやってしまいがちな行為に注意が必要です。以下の行為は「法定単純承認」にあたり、その後の相続放棄が認められなくなります(民法第921条)。

  • 相続財産の一部または全部を処分した(相続財産で物を売ったり、負債を返済したりした)
  • 熟慮期間内に限定承認も相続放棄もしなかった
  • 相続放棄または限定承認をした後に、相続財産を隠したり、費消したりした

実務上よくある「とりあえず被相続人名義の通帳から葬儀費用を支払った」も、場合によっては問題になりえます。手続き前の行動は慎重に。

限定承認との比較

項目相続放棄限定承認
効果相続財産・相続債務すべてを放棄プラスの範囲内でマイナスを引き受ける
手続きの複雑さ比較的シンプル相続人全員の合意が必要・複雑
向いているケース債務超過が明らか / 財産すべてが不要プラスが残るか不明なとき
次順位相続人への影響あり(下記参照)なし

限定承認は相続人全員が共同で行わなければならず、手続きも複雑なため、実務では相続放棄を選ぶケースが多いです。

次順位相続人への影響

先順位の相続人が全員放棄すると、相続権は次の順位の相続人へ移ります。

法定相続の順位(目安):配偶者は常に相続人 → ①子(直系卑属)→ ②親(直系尊属)→ ③兄弟姉妹

子が全員放棄 → 親へ移行 → 親も放棄 → 兄弟姉妹へ移行という流れになります。親族内で放棄が「連鎖」するケースがあり、事前に親族間での調整が必要になることがあります。

相続放棄 vs 相続土地国庫帰属制度:使い分けの考え方

土地だけを手放したい場合は、相続土地国庫帰属制度が選択肢になります。この制度は、相続した土地を国に引き取ってもらう制度で、相続放棄と違い「土地だけ」を対象に手続きできます。

比較項目相続放棄国庫帰属制度
対象相続財産全体土地のみ
タイミング相続開始後3ヶ月以内相続登記後いつでも
費用数万円(弁護士費用含む)負担金(面積に応じた実費)+審査費用
審査家庭裁判所法務局(要件が厳しい)

「土地以外にも価値のある財産がある」「3ヶ月の期限に余裕がある」という状況では、国庫帰属制度を検討する価値があります。

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宅建士が整理できること・弁護士に確認すべきこと

相続放棄の手続き自体は弁護士・司法書士が担う領域ですが、宅建士として支援できることがあります。

宅建士が整理できる範囲:

  • 土地の維持管理コスト(固定資産税・管理費)の見立て
  • 売却・国庫帰属制度・民間引き取りサービスなど代替手段の比較
  • 相続放棄を選ばない場合の不動産処分スケジュールの設計

弁護士・司法書士に確認すべきこと:

  • 放棄の可否に関する法的判断(法定単純承認の有無)
  • 期限管理と熟慮期間延長の手続き
  • 放棄後の管理責任の範囲
  • 次順位相続人への通知・調整

まとめ

相続放棄は有効な選択肢ですが、「判断を急ぐほど失敗しやすい」手続きでもあります。3ヶ月という期限に追われながら、全財産への影響・法定単純承認のリスク・次順位相続人への波及まで考慮しなければなりません。

土地の負担感だけで動かず、まず弁護士・司法書士に相談して全体方針を固めてから動くことを強くお勧めします。


*この記事は宅地建物取引士(雪下 智且)が執筆・監修しています。内容は2026年2月12日時点の情報に基づきます。相続放棄の具体的な法的判断・手続きは弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。*

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